タイ・バンコクで図書館多読(日本語)@国際交流基金バンコク文化センター

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タイ・バンコクから図書館日本語多読(@国際交流基金バンコク文化センター)の報告が届きました。
報告してくれたのは、正会員の山口ひとみさん。バンコクの大学で多読普及に孤軍奮闘されています。

山口さんは2015年6月に理事の粟野がバンコクで行った多読セミナー以来、日本語学校や勉強会などで多読セミナーの講師を務めたり、ご自身が教える大学で多読実践を続けていらっしゃいます。

タイ・バンコクで多読普及 続編!

タイ・バンコクから日本語多読普及セミナー報告!

 

3月と4月の計2回、国際交流基金バンコク文化センターの図書館を利用した図書館多読の授業を行ったそうです。
以下、山口さんの報告です。

《図書館多読をやってみた!》

【全体概要】

  1. 担当講師  :山口ひとみ
  2. 機関名   :サイアム大学教養学部日本語コミュニケーション学科
  3. 科目名   :中上級日本語2
  4. 人数    :18名ー4年生(2557年生)15名、5年生(2556年生)3名
  5. 授業内多読 :8回(平均30分/回)

→実施場所:サイアム大学19号館教室

  1. 図書館多読 :2回(読書時間:1回目120分/2回目90分)

→実施場所:国際交流基金バンコク文化センター図書館、教室A
→実施日 :2018年3月27日(火)/4月3日(火)

  1. 2557年生の授業内多読の経験回数
    ・2年生前期 → 13回実施(2558−1) 平均36.9分/回 読了平均46.3冊
    ・2年生後期 → 14回実施(2558−2) 平均22.9分/回 読了平均23.5冊

*2557年生 → タイ暦2557年に入学した学生たちを指します
*タイ暦2557年=西暦2014年

【クラス概要】

当学科は一学年あたりの学生が20名程度と少なく、1年生から4年生までほぼ1クラスで構成されています。そして、3年時には半数以上の学生が交換留学に行くため、帰国後の4年時のクラスは日本語のレベル差が交換留学に行く前よりも大きくなっています。(N5からN2レベルの学生が混在)そのため、一斉授業をするには厳しい状況と毎年なります。

今回、図書館での多読を実施した学生たちは2年次に1年間授業内で多読をしていました。3年時には、ほとんどの学生が日本へ交換留学に行ったのと、授業内で多読が実施できる科目を私が担当していなかったので、多読は特にしませんでした。

【図書館多読実施の目的】

当学科において、1年以上の多読を実施したのはこの2557年生が初めてでした。2557年生の2年前期に授業開始50分程度を使って多読を実施し、その後定期的に多読を続けてきています。授業内多読で使用した本は、絵本やレベル別日本語多読ライブラリー、そしてジブリのマンガ等です。

この学生たちは今学期が大学生活 後となる学期で、卒業後は自ら努力しない限り日本語学習から離れていってしまう可能性のある学生たちです。卒業後も日本語の自学自習が続けられるよう、教室外の多読ができる場所を知ってもらうため、またバンコク市内にある日本語リソースの場所を知ってもらうために実施しました。

【図書館多読実施手順】

  1. 学生が図書館に来る前に、あらかじめ学生が読めそうな本がどこの棚にあるのかをチェック
  2. 学生が図書館に来てから、図書館の方に簡単に施設の説明をしてもらった後、学生に読めそうな本がある場所を教員が説明
  3. 学生自らが読みたい本を選んで教室Aに持って行き、読書
  4. 本が見つからない学生のためにしばらく図書館で教員は待機
  5. 読書中、難しかったり、つまらなかったら本を変えてもいいと指示
  6. トイレなど休憩も自由に取っていいと指示
  7. 学生の様子を見て、読み疲れてきて集中力がなくなりそうになったころに読書終了をつげる
  8. 5人程度の小さいグループになって、タイ語でその日読んだ本で面白かった本を紹介
  9. ・タイ語の紹介が終わった後、日本語でもう一度紹介を言ってみる(1回目のみ)

・擬音語擬態語の多い絵本の読み聞かせ(2回目のみ)

  1. 片付けをして終了

 

【多読時の様子】

図書館多読1回目では、学生たちも初めての場所ということもあり、多少戸惑った様子でした。しかし、自分で好きな本を選んだり、友達と相談して本を選んだりと普段よりも多くの本と触れることができ、嬉しそうに本を選んでいました。この図書館にはマンガやアニメのDVDもあるため、マンガやアニメのDVDを見るのでもいいと指示しましたが、マンガ読んだでいた学生は1、2人程度で、大半の学生は絵本や物語を読んでいました。

1回目の図書館多読開始時、実はどうなるか私自身はとても不安でした。今までは授業開始前という、授業があることが前提となっている多読でしたが、今回は授業はなく、本を読むだけという活動です。そのため、もしかしたらすぐに飽きて読まなくなるのでは、という不安がありました。しかし、学生たちがいつも変わらぬ様子で熱心に本を読んでいるのを見て、その不安はなくなりました。

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読書時の様子(かなり集中していますね)

 

1回目は約2時間の読書時間を設け、その後ブックトークを5名程度のグループになってしてもらいました。ただ、日本語でのブックトークとするとプレッシャーを感じる学生もいるので、タイ語でのブックトークとしました。本を見せながら楽しそうに話しをしている学生、グループのメンバーから質問を受けている学生など、活発なブックトークが実施できたと感じています。タイ語でのブックトークが終わってからは、同じ内容のブックトークを簡単な日本語でしてもらいました。日本語になると口数が少なくなってしまいますが、それでも今までよりは色々と自分から話そうとしている姿が見えました。また、私から学生に、読んだ本はどうたったかと聞くと、自ら日本語で嬉しそうに話す学生が多く、普段なら単語レベルで話を終わらせようとする学生たちも、この時は何かを伝えようと文レベルで頑張って話していました。

2回目の読書時間は1回目よりは短く1時間半としました。これは、学生が場所に慣れてきたために緊張感がなくなり、読書への集中力が続かなくなったので短くしました。また、今までよりも豊富な本があるので、友達が読んでいる本が気になるようで、おしゃべりが途中

で増えたので、読む時間を短くしてブックトークに切り替えたという理由もあります。

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ブックトーク時の様子(母語で本について楽しく語ります)

2回の図書館多読を通して、1年ぐらい授業内で多読を実施した学生たちは、図書館という本が豊富にある場所でも自分のレベルにあった本を探し出すことができるのではないかと感じました。難しすぎる本を選んだ場合は、すぐに別の本に変えていたので、多読ルールが学生たちに浸透しているのではないかと考えています。ただし一部、辞書を使っている学生もいました。その学生は料理本を読んでいて、写真を見ながらなら何しているのか分かるが、漢字に振り仮名がないために、その漢字の読み方を調べるために辞書を見ていました。図書館には多くの本があるので、本が多い環境に不慣れな学生にとっては何を選んだらいいのか戸惑ってしまう可能性があります。図書館で多読をする場合、教師は事前にどこに学生が読める本があるのか、そして学生が好みそうな本はどんな種類(歴史・物語・絵本等)なのかを把握しておく必要があると思います。

 

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本を選んでいる様子(選ぶ楽しみ。あ、『宇宙兄弟』がありますね!)

 

【学生からの感想】*原文のまま

  • 図書館に来て、日本の本をたくさん読んでみました。面白い本はたくさんありますが、つまらない本もあります。場所は遠いですが、来てよかったと思います。
  • わさわざここに来て楽しい本があると期待した
  • ここにちょっと遠くても、来ることがいいと思ういます。たくさん本があるからです。難しい本とか優しい本など選べて読みます。だいたい本を読むとあまり漢字を読めないから、ちょっと大変でしたが、楽しかったです。
  • 私はいろいろな本を読んで、おもしろくて楽しかったです。図書館でいろいろな種類の本がたくさんありますから。簡単も難しいもあります。私は絵本が大好きです。
  • この場所はいろいろな本のしゅるいがあり、友達と一緒に本を読みます。うれしくてとても楽し買ったです。
  • 図書館に二回目来ました。この図書館はいろいろな本がいっぱいあります。興味がある本があるので、いい図書館です。
  • 私の感想は楽しかったです。なぜなら、ここは私の家が近いです。大学より近いです。行きやすいです。一回も二回も好きです。いつもいつも教室に勉強してばかりですから、やっぱり気持ちはつまらなくなります。だから、また外の大学へ出かけたいです。本をだんだん読んで、ちょっと眠いですげど、すみません。
  • ここに来るには、私はいろいろなほんが見ます。たくさんありますね。この本はいろいろ内容があります。いくつかの本は面白いです。でも、難しい本もあります。だいたい私は子ともの本とえのほんよく読みます。
  • 2回目、図書館に行きました。いろいろな本を読んで、楽しかったです。新しい言葉もたくさんあります。よくマンガを読みました。すごく昔の言葉が多いです!でも、辞書を使ってよく言葉を分かりました。今回の活動がいいと思います。次の機会があれば、図書館に行きたいです。
  • この図書館は本がたくさんあります。本の種類もたくさんあります。この図書館は静かなところなので、といてもいいです。この図書館は面白い本がたくさんあります。簡単な本も難しい本もあります。
  • 色々な本を読んで楽しかったです。ここ、私のところからちょっと遠いだと思いますが、いい本とたくさんあっていい経験を貰いました。今度、チャンスがあればここに自分で来るかもしれません。
  • アソーク通りといううちの大学から50分い離れている場所で交流会しにきました。クラスで先生に発表したときにとても楽しみにしていた。大学の景色じゃなくて、どこかわからないところでやっときると、移動経験を得た感じしました。また、活動の間で、ストレスの感じが消え、友達と読んだ本の感想を話したりしていた。そして日本語本がたくさんあるところは始めてきたら、とても感動をして「先生に読ませた本より難しい!」自分に質問した。そして、本の内容だけでくて、図書館と教室の周り人たちの行動を見られて勉強になれます。これから日本語社会に入り準備厳しくならないといけないの気持ちをもちになります。
  • 私は初めて図書館に来ます。面白い本がたくさんあります。私のプロジェクトの本はいっぱいあります。今度、私は借ってみます。

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山口さんのおっしゃる「卒業後は自ら努力しない限り日本語学習から離れていってしまう可能性のある学生たちです。卒業後も日本語の自学自習が続けられるよう、教室外の多読ができる場所を知ってもらうため、またバンコク市内にある日本語リソースの場所を知ってもらうために実施しました。」は、とても重要なこと。卒業後も日本語の学習をどうやったら続けられるかを教えるのは教師の大きな役目だと思います。世界各地にある国際交流基金の図書館がリソースのある拠点だということをもっと多くの学習者に知ってほしいし、利用してほしいですね。
学生さんたちの原文のままのナマの感想、伝わってくるものがあります!
報告、ありがとうございました。

(粟野)