11月19日(日)第37回「多読授業とリライト」入門講座報告

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今回の講座には6名の方が参加してくださいました。

参加者は日本語教師や教師になる勉強中の方で、その中には、アメリカンスクールで日本語を教えている方や、中国の北京で日本語を教えている中国人の方も。また、既に多読を授業に取り入れている方が2人いらっしゃいました。
講師はNPO多言語多読理事の松田緑でした。

まず、どうして多読授業を始めたのか、そのいきさつをお話しました。そして多読授業がどういう授業なのか理解していただくために、実際の授業風景を動画で見ていただきました。

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多読授業をどのように始めたらいいか、本の準備や最初の授業の様子、そして、教師の役割ついて。最初の授業のときに、多読の4つのルールや何のために多読をするのかについて話しておくことが大切だと話しました。さらに、読むことだけでなく、日本語の音を聞くことについても、読み聞かせや聞き読みなどの様子も見ていただきました。

動画を見た後で、いろいろな質問が出ました。

Q:上級者でもレベル0のような易しいものから読ませるのですか。

A:訳さず絵をよく見る読み方を身につけてほしいので、できるだけレベル0から読むように勧めてください。レベル0から多読を体験した中国人日本語教師のDさんは「レベル0の本でも知らないことがいろいろあったので、読んでよかったです」と感想を話してくれました。

Q:授業中、ただ一人一人に本を読ませているだけだと何もしていないように思われます。上司や同僚の理解を得るにはどうしたらいいのでしょうか。

A:授業中教師は、本当に合った本を読んでいるか、その本を楽しんでいるか観察したり、辞書を引いている人に声をかけて疑問を解決できるようにアドバイスしたり、本を読み終わったら声をかけて感想を聞いたりします。そして感想は記録しておき、次に何を勧めたらいいかの参考にします。一人一人に対応するので忙しいです。読んだ本について話すブックトークをするのもいいと思います。

Q::授業時間はどれぐらい取ればいいですか。

A:レベルにもよりますが、100分ぐらいが理想。でも15分でも多読を始めることが大切だと思います。

次に多読体験をしました。

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韓国語やスペイン語の絵本で、言葉がわからなくても、絵でストーリーがわかることを体験していただきました。韓国語を勉強中という方がいらっしゃったので、韓国語版の「どいてよへびくん」の読み聞かせをしていただきました。何度も場面を変えて同じ言葉が出てくるので、韓国語をまねて発音する人も。自然に場面と言葉が結びつくことを実感していただきました。

英語の多読体験では、日本の英語の教科書には出てこない言葉や、知っている使い方とは違う意味合いで使われている言葉がたくさんあって、場面と結びつけて理解していく大切さを感じていただきました。

「多読授業について今日話したことは、『日本語教師のための多読授業入門』(アスク出版)にも出ていますので、この本も読んでください」という講師の言葉で午前の部は終わりました。

 

午後はリライト体験です。

「やさしい日本語とは?」という質問に、「長い文は難しいと思う」「会話が多い方がやさしいのではないか」などの答えが返ってきました。
リライトのポイントを書いたプリントと語彙表・文型表を配って気を付ける点について説明しました。

3人ずつ2つのグループに分かれて、4つのイソップ寓話の中から1つ選んでレベル0にリライトします。どちらのグループも「ウサギとカメ」を選んでリライトをスタート。

語彙表を調べて「速い」「遅い」「走る」などがレベル0の言葉でないことがわかると「うわあ、大変、どうしよう?」「絵で表せないかな?速く走っている姿、描けるかしら」「ここ、会話文にするのはどう?」と、知恵を絞ります。また、話を魅力的にする工夫も考えます。「ウサギとカメに名前をつけるのはどうかしら」「ピョン太とノロ子はどう?」どちらのグループも楽しそうです。

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1時間ほどで絵もつけてできあがり。それぞれ作った作品を発表しました。その後で、アスク出版の「ウサギとカメ」を紹介しました。

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休憩の後、グループのメンバーを替えて、2作目のリライト。「注文の多い料理店」をレベル3で作っていただきました。

書き出しのところで「う~ん、どうしよう」。言葉をやさしくするだけではだめだと感じて、バッサリ削ったり、わかりやすい設定に変えたり、いろいろなことを考えながら、リライトしていきます。

苦しみながら、なんとか1ページほどをリライトして、発表しました。
どちらのグループも書き出しの文が長かったので、「書き出しの文が長いとそこで読むのを止めてしまう人もいますから、書き出しはもっと短くしたほうがいいですよ」と講師がコメントしました。それから、アスク出版の「注文の多い料理店」の冒頭から数ページを、講師が読み、自分たちが作ったものと比べてもらいました。

リライト体験の感想は、「リライトがこんなに大変だとは思わなかった」でした。そして「読みやすさと原作の味を残すことを両立させるのはとても難しい」という講師の言葉に、みなさん頷いていらっしゃいました。

今回は、間もなく中国へ帰って日本語の授業を続ける方、エジプトへ赴任して日本語を教える方もいらっしゃいました。多読を授業に入れてみたいと思われたようです。この講座が日本語多読が世界に広がっていくきっかけになったのだったら幸いです。
(白石)