第5回 多読支援セミナー 日本語分科会報告

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日本語分科会 午後1時30分~5時

今回は、約60名の日本語教育関係の方々が参加してくださいました。支援セミナーリピーターの方や、当NPOのリライト講座・講演会などの参加経験者の方が多かったようです。

多読授業を実践中、または実践の経験がありますか?」という司会の粟野の問いかけに、かなり多くの方の手が挙がりました。5年前のセミナーには実践していらっしゃる方はまだ少なく、「多読という学習法ってどんな物なのだろう?」という興味から参加なさった方が多かったことを考えると、状況は変わってきていると感無量です。

昨年と同じく、所属機関別に9つの島に分かれて座っていただきました。海外大学が1グループ、国内大学が2つ、大人や子どもへの日本語支援ボランティアその他のグループが2つ、国内日本語学校が4つです。

◇まず、仙台国際日本語学校の遠藤和彦さんが実践報告をしてくださいました。

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「『猫踏んじゃった』と『目黒の秋刀魚』―多読授業から見えてきたこと」。いったいどんな話だろうと興味惹かれるタイトルです。

内容は期待通り、面白く、楽しく、そして深いものでした。
非漢字圏からの学生が増え、読解力をあげるためにはじめた多読を続けてきて、最近では教師たちも英語多読をしてみるに至った遠藤さんの今の日本語教育への思いや疑問が現れていたと思います。
「日本語を難しくしているのは、日本語教師ではないか」という冒頭の言葉を重く受け止めた方も多かったようです。
午前の全体会での纐纈(はなぶさ)さんの「もっと、肩の力を抜いて楽しく多読授業をしましょうよ」という呼びかけにも相通じるところのある報告でした。

強制されて楽譜を見ながら弾くのではなく、耳で聴き覚えた曲を、弾きたいと思って弾くほうが楽しいよね。小骨を抜いたり、脂抜きをしたものではなく、ジュウジュウ焼きたての秋刀魚がおいしいに決まっている。そこに、「さあ!いらっしゃい!おいしい、焼きたての秋刀魚だよっ」という声がかかれば、もっと、食べたくなるでしょ? 遠藤さんの呼びかけが心に響きます。

「秋刀魚=日本語 を蒸したり小骨を抜いたりして、わざわざまずくして、殿様=学習者 に提供していたかもしれない」と、わたしもドッキリしました。

続いて以下の5人の方々には、数分から10分くらいの短い報告をお願いしました。

  • イタリア・ナポリ東洋大学の今井弘美さん

フィレンツェの語学学校での実践。年齢も様々な6名の受講生に、1回90分の多読授業を10回に渡って実践した報告です。途中で、本が足りなくなり追加購入したり、読みものを作成して凌いだり、というハプニングもあったようですが、充実した多読になったようです。

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◇ロシア・ウラル連邦大学の門井美奈子さん

大学内の学生と、外部の社会人や学生の参加するReadingクラブでの実践の報告でした。週1回90~120分で、3ヶ月間。多読をする受講生の前で、門井さんがロシア語の本を読んでいたところ、それに気付いた参加者がとても嬉しそうだった、という話が印象的でした。

◇摂南大学国際交流センターの梅野将之さん

大学の日本語科目の1つとしての実践の報告でした。前期に90分14コマ、後期に15コマという構成で、主に韓国の学生を対象とする授業。1回目の授業で、多読授業の学習効果や、評価などについてきちんと説明してから始める。終わりの頃にはビブリオバトルをして、その中で、チャンプ本を選ばせる、などの工夫をなさっているということでした。

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◇文京学院大学の作田奈苗さん

学部の半期の授業として行ったそうです。週1回90分で15回。ビブリオバトルやプロジェクトワークや、人気本ランキング発表など、活発な授業の内容が印象的でした。

前年度に比べて、今年度の学生は、読書習慣がなく本を読むことに興味がない、ブックトークをしても、クラスメイトの話に耳を傾ける学生が少ないなどの問題点があり、苦労しているということでした。

◇NPO法人アイカスの葛西厚子さん

「せんだい日本語講座」というボランティア講座の中に組み込んだ週1回の多読授業です。国籍も、生活事情も様々な受講生に参加してもらうため、初級の日本語授業が終わったあとの、参加しやすい時間に多読を入れるなどの工夫をされているようでした。

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6名の方のいろいろな場での実践報告を聴いた後、各島で簡単な自己紹介と、実践報告についての感想を話し合いました。

最後に、各島の中心話題を発表してもらい、問題をシェアしました。

 

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日本語学校からは、東アジアの学生が大多数だった時代から、東南アジアの学生が多くなって来ている現在、「読書習慣のない学生に、どのように多読をしてもらうか」という悩みが出てきました。

海外大学からは、「日本語指導する自分たちに多読の経験がない」ということに気付いたこと。そして「教師が多読をしてみることが問題解決の鍵になるのでは・・・」という提案がされました。

まだまだ、話し足りない気分のまま閉会の時間を迎えました。
全体で問題をもう少し掘り下げたかったのですが、時間が足りず、「感想会のようになった」とご批判も受けましたが、初めて参加した先生方から「一日があっと言う間でした。本当に楽しい研修でした」「楽しくてわくわくしました。また来年も来ます!」と言っていただき、少しホッとしました。

「今回参加されたみなさん、来年は皆さんの番です。失敗でも成功でもぜひ実践報告の名乗りを上げてださい」と御願いをして閉会としました。

来年も、成功例の発表を聞いて終わりではなく、問題の背景や解決策をともに話し合ってヒントを見つけられるような勉強会にしたいと考えています。
さらに、主催者の私たちでなく、リピーターのみなさんが作っていく会になったらいいなと思っています。ぜひ、来年もお会いしましょう!

★追伸

仙台国際日本語学校の遠藤さんが呼びかけた熊本地震義援金は14,005円集まりました。募金はすでに郵便局で日本赤十字の口座に振り込まれたとのことです。ご協力あありがとうございました!

遠藤さんの呼びかけのもと、いつか多読の読みもの「熊本」が完成するのも楽しみにしています!

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(松田 記)