第5回 多読支援セミナー「多読支援の落とし穴」 全体会の報告

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2016年8月7日(日)に第5回多読セミナーが行われました(会場:文京学院大学女子中学校女子高等学校)。
猛暑の中を120名近くもの方が参加してくださいました。

基調講演は当NPOの酒井邦秀理事長の「多読支援の落とし穴―多読と多読支援の悩みを探る」です。これまでの多読の講演や実践報告では、多読の良さに光が当てられてきました。従来型の学習にはない効果や感動があるからこそ多読の良さが語られるわけですが、「多読を開拓してきた我々としては、多読の『影』の部分に道をつけることも我々が最初にすべきだと思う」「課題を来年度までじっくり考え2年かけて取り組もう」と述べ、これまでの長い多読支援で経験した様々な落とし穴について話しました。

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まずは年代別の壁-親子多読、小学校(「英語が小学校で必須科目となれば英語ギライが出るのが6年早くなる!」と酒井理事長は危惧)、中学・高校(学校の成績との関係)、大学、社会人(TOEICの壁)、高齢者(昔教わった学習方法に固着する人が・・・)

次に多読の段階別の壁-多読の入り口(分からない単語があると絶望する、内容を理解しなければと自分をテストしてしまう)、Grated Readerばかり偏って読む(一番良く使うやさしい言葉が身体にしみてない)、保護者のチェック(「今日何習ってきたの?この単語分かる?」)その他数々のトラップが!!

やはり一番大事なのは「学校英語のやり方を全部捨てて、子供に戻ってやさしい絵本を楽しむところから始めるのが大切」と酒井理事長は強調します。そして、あらためて、これまでの実践から生まれた知恵の結晶である、多読三原則(「辞書は捨てる」「わからないところは飛ばす」「合わない本は投げる」)、現在思案中のTadoku三原則、多読支援三原則、学校内多読支援の二条件、支援者の二条件について語りました。

基調講演の最後に国内では山形や長野、千葉、海外からはアメリカなど遠方からの参加者が紹介され、多読の広がりと支援者の熱意を感じました。

続いて、ノートルダム大学の纐纈(はなぶさ)憲子さんから「米国ノートルダム大学の日本語多読実践報告~学習者の『好き!』を生かす授業~」の報告がありました。

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米国ノートルダム大学の日本語プログラムには20数名の日本語専攻の学生以外にも多くの学生が参加しているそうです。日本文化や日本語に対する個人的興味から履修する学生がほとんどで、学習者が多様化していることから、一斉授業への疑問を抱いていたそうです。個別活動として日本語多読はぴったりで、図書館と連携して多読授業を実践されています。

リラックスして読書を楽しむこと、絵をじっくり読むことを重視されており、スライドの写真から学生たちがゆったりと読書を楽しんでいる様子が見て取れました。学期末には学生たちがそれぞれ思い思いの日本語プロジェクトを発表します。最初は自作の絵本やPOP書きが中心でしたが、パロディ本や、双六、カードゲーム、ビデオ、創作オンラインゲーム、マジックボックスまで多様化したとのことで、実際の生徒さんの作品を幾つも上映して頂き、その内容の自由さ、愉快さに目が釘付けになりました。教師のコントロールなしに、学生が自発的に日本語と日本文化を楽しんでいる様子に、自然な言葉の習得の素晴らしさを改めて感じました。

出版社による多読図書の展示(英語/日本語)
多読図書の展示。協賛ありがとうございました。(左上: Kids Mart/ネリーズ/アスク出版 左下: オックスフォード大学出版局/ロイヤルブックス/大修館書店)

(会員/伊藤晶子)